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競輪必勝法

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著:能島廉

en-taxi(扶桑社) 2010年 第31号 特別付録

定価860円


この本を、昨年から、ずっと探していた。

1月の家族旅行で自由時間を貰った際、大井に行くか、神田に本書を

探しに行くか迷ったものだ(結局大井に行って失敗した訳だが)。

見つけられなかった訳は、既に絶版となっている筈の本書を、書店の

文庫本コーナーで探し続けていたからだ。

3/3、本好きの娘に付き合って書店の中をブラブラしていた時、ふと

閃いた。あの本、ひょっとして文芸誌の「付録」なんじゃ・・・。

以前インターネットで調べた際、あまり良く読んでいなかったのだが、

この日改めて検索すると、どうやらen-taxiという文芸誌に、復刻版の

文庫本が「付録」として付いていることが判明。

今まで古本屋で探していた時間が無駄だったことを、この時悟った。

en-taxi誌はあっさり見つかり、中に輪ゴム留めされたこの文庫本を発見

し、思わず「おお!!」と声を上げてしまった。

本屋で本を見つけ、声を上げたのは勿論初めてのことだが、奇しくも競輪

ダービーの決勝前日に見つけられるとは、半ば諦めていただけに、そちら

の驚きも重なった。

そしてその日の晩のうちに、一気に読了した。


本書は昭和40年『駒込蓬莱町』というタイトルで出版された短篇集のうち、

「駒込蓬莱町」「辞職願」「服装について」「競輪必勝法」の四編を抜粋

した復刻版である。今回の文庫本化に伴い、編集の坪内祐三氏によって、

本のタイトルが変更されている。


筆者の能島廉は昭和4年宮崎に生まれ、その後一家で高知に移り住む。

高校卒業後は東京大学に入学し、大学卒業後は小学館に入社。

少年雑誌の編集に携わり、「中学一年生」の編集長などを勤めながら、

昭和38年の退社まで、11年間勤務した。


大学時代から新思潮の同人となり、昭和26年から30年までの4年間に

11篇の短篇小説を新思潮に発表。これが遺作となった「競輪必勝法」

以外の全作品だそうだ。


「競輪必勝法」は、車券の買い方について書かれたノウハウものではなく、

昭和32年頃から壮絶なまでに競輪にのめり込んでいった様子が、私小説

の形式を用いて(あまりシリアスな印象もなく)描かれている。

年譜を読むと、小説の中にも登場する女性との同棲生活が終わったのが

昭和36年の2月。二人とも精根使い果たしたと書いてあり、翌3月には

慢性肝臓炎で入院する。

ほぼ毎日どこかしらで開催されている競輪に参戦することで、経済的

にも肉体的にも蝕まれていったことから、その後はどうやら本格的に

競馬に転向したようだが病魔には勝てず、昭和39年12月、入院先の病院

で、危篤状態から自力で立ち上がったことにより、心臓麻痺を起こし

死亡。享年35歳の若さだった。


最近、通勤の際に読んでいる『海炭市叙景』の佐藤泰志もそうだが、

「散る文学」と形容される小説は、繊細で儚く、何より文章が美しい。

大衆文学と純文学の違いは、前者がストーリー展開で読ませるのに

対し、後者は文体で読ませるべきであるという趣旨のことを、ある文芸

評論家が書いていたが、競馬や競輪が純文学と親和性が高いのは、

それらの敗者を通じて観た風景や、敗者の意識の流れの描写が、

純文学的な要素を内包しているからだろう。決して、馬やレーサー達の

走る姿に人生を重ね合わせ、縮図だとか言っている訳ではない。

きっと、そういうことなんだろうと思う。


昭和30年代に書かれたこの小説は、現代文学(小説)と言われても気付か

ないほどの普遍性を保っている。

厳密に言えば物語の中で、車券を枠単で買っていたりする部分だけは

(今でも売られてはいるが)レトロなのだが、ギャンブルと向き合っている

時の心理描写は、現代のギャンブラーたちと何も変わっていないことを

気付かせてくれる。


ギャンブルとは、結局は一人一人の個人戦なのだと、昔からギャンブル

の諸先輩方があちこちに書かれているが、作中では、付き合い始めの

女性を競輪場へと連れて行き、その後に別離の手紙の中で、こう書か

せている。

「・・・・・必死に競輪を見つめている貴方の後姿が、とても淋しそう

でした。貴方自身以外を寄せつけない孤独の影のようなものを感じとり

ました。結婚するということは、その孤独の中へ、いっしょに、はいって

いくことだと存じます。(以下略)」

これにより、ほんの一瞬だけ反省する主人公だが、負の思考・負の連鎖は

むしろこの後にエネルギーをどんどん増してゆき、次に付き合う女性との

関係においては前述した通り、精根使い果たすほどの破たんを生んでおり、

小説では書かれることがなかったが(当たり前だが)、実際の主人公=筆者

の死をもって物語は、小説の枠外で終焉を迎える。


読了後に改めてこのタイトルを見てハッとした。

あまりにも皮肉すぎるタイトルだ。

再び、悲しい気持ちがよみがえってきたが、ギャンブル小説として傑作で

あることに間違いはない。
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ここの予想は当たらないので、
上手く利用して下さい。

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